(2019年8月1日発行)

◆相続が変わった(3)

改正相続法(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」)についてお伝えするシリーズの3回目は、配偶者への配慮から新設された制度を2つご紹介します。

◆婚姻期間20年以上の夫婦間で行ったマイホームの贈与等に関する優遇措置~配偶者はより多くの遺産分割が受けられるように

これまで相続人への生前贈与は「遺産の先渡し(特別受益)」とされ、遺産分割の時には遺産総額に含めなおして相続分を計算する必要がありました(これを特別受益の持ち戻しと言います)。これは生前贈与を受けた分だけ遺産分割時に受け取れる財産も減るため、贈与等がなかった場合と同じ結果となっていました。夫婦で住む自宅を配偶者に贈与する場合も適用され、「配偶者の今後の生活の安定」のために行った生前贈与が、その意思にそぐわない結果となっていました。2019年7月1日施行の改正相続法では、「婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与や遺贈が行われた場合は、原則として、その贈与分は特別受益として取り扱わなくてよい(=遺産分割の対象外とする)」とする優遇措置ができ、遺産分割における配偶者の取り分が実質増えることになりました。

◆配偶者居住権の新設(※2020年4月1日施行)
~配偶者の「住む権利」を確保

自宅以外にめぼしい相続財産がない場合、配偶者が自宅のすべての権利を相続できず家を手放したり、家を相続できたとしても十分な生活資金まで相続できず、生活に不安を残したりすることが少なくありませんでした。そこで、残された高齢の配偶者が自宅に住み続けることが出来るよう、新たに「配偶者居住権」の制度が創設されました。
「配偶者居住権」は、相続開始時に配偶者が故人所有の自宅に住んでいた場合終身または一定期間自宅に住み続けることができる権利です。建物の権利を「負担付き所有権」と「配偶者居住権」に分け、遺産分割の際は配偶者が「配偶者居住権」、配偶者以外の相続人が「負担付き所有権」を取得できるようにしました。配偶者居住権は完全な所有権とは異なり、人に売ったり、自由に貸したりすることができません。しかしその分評価額を低く抑えることができるため、他の財産を取得する余地ができます。配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金など他の財産をより多く取得できるようになり、その後の生活基盤の安定を図ることができます。